■ 阪鶴鉄道の本社はどこに(2)     [目次ウィンドウ]  [目次]

前章において、「寺畑村8番地の1」に存在したといわれる阪鶴鉄道本社・箕面有馬電気軌道設立時の登記住所の所在が謎であることを指摘したが、その後調査を進めるうち、いくつか新しい手掛をつかむことができた。

まず、明治42年測量の帝国陸地測量部による地形図[7]を入手することができた。阪鶴鉄道の解散が明治40年であるから、解散後すぐに解体されてしまったのでなければ、この地形図に本社建物が書き込まれている可能性は高い。写真に残されている「池田本社」を見ると2階建てで幅20〜30mはゆうにありそうな立派な洋館であるから、この1/20000の小さな地形図にもおそらく省略されずに記されていると期待してもよさそうである。前章でひとつの可能性として挙げた山畑の全日空社宅の位置は、この地形図では林しか記されていないので、地番の不一致も考え合わせて、やはり候補として弱いと思われる。

これとは別に、現在の地図で当時の寺畑主要部にあたる地区を詳細に見ていくと、池田駅から花屋敷駅に上がる坂の途中、まさに「寺畑の丘の上」に、最近まで三井物産の社員寮があったことに気が付く。そこですぐに想起されるのが「逸翁自叙伝」中で、当時三井物産が阪鶴鉄道の大株主であったと述べられていることである([89] p.157)。さらに小林一三自身、三井銀行の出身であった。これらの事実に気づいたとき、筆者は正解にたどり着いたと思ったのであるが(前章で、箕面有馬電軌の登記になぜ国有化された阪鶴鉄道の本社住所を使用したのかという謎を提起したことを思い出していただきたい。上の事実はこの解答にもなっているのではないかと思われたのである)、さて地形図に戻ってみるとその場所はやはり一面林であって建物らしき影は見当たらない。この場所の地番は「西ノ垣内29番地」であり、「8番地の1」ともかけ離れている。地形的にも(社屋が道路に直接面していたと仮定して)坂の勾配が急に過ぎるように見える。さらにはこの地番の所有者を辿ってみると、昭和26年、大阪市の長尾商事という会社が取得するまで一貫して個人の所有である(もちろん借地であったという説は成り立つが)。このようにひとつとしてこの仮説を裏付ける事実は見当たらないのである。

そこでこの仮説も捨て、改めて地形図と地番に戻って考えてみることにする。既に導入したいくつかの仮定と合わせて、合理的と考えられる仮定を以下のように設定する。

これに基づき、まず8番地に集落の存在しない字を除くと残るのは「西ノ垣内」、「北谷」、「中ノ垣内」の3つである。そのうち、西ノ垣内8番地は阪鶴鉄道の路線敷地として収用されているし、「丘」ではない。「中ノ垣内8番地」も丘であるとは言いがたい。残るのが「北谷8番地」である。ちょうど道路を挟んで先の三井物産寮向かいに当たる地域で、下図の赤で塗った集落ブロックの存在するあたりから坂道沿いに箕有電軌の線路まで伸びる大きな区域である。ではこの土地の所有者はというと、明治30〜40年頃は個人所有であり、阪鶴鉄道の名は見当たらない。(大正期に分筆され、8-2から8-11までは「花屋敷土地株式会社」により所有され分譲住宅となったと見られる。)従って、上記仮定4を持ち出さなければ説明がつかない。確かに将来に渡って事業を継続するにあたって池田に基地を築こうとし、着々と実現させていた阪鶴鉄道が、写真のような本格的な本社を借地上に建設したかどうか疑わしい。しかしここは少々強引であることを覚悟で、消去法で残ったこの仮説に仮定4を一旦適用することにしたい。地図上にはこの区域内に2個の大きな集落ブロックが描かれている(赤で表示)。写真から推測して、社屋はこれらのブロックを単一で占める程度の大きさがありそうである。従って、この2つのどちらかが阪鶴鉄道本社に当たるのではないかという、一応の結論を得ることができる。あくまでも上の仮定を置いた上での推論であり、またそれ以外にも、「逸翁自叙伝」の「寺畑の山手の丘上」という句を一旦措くならば、「西の垣内8番地」つまりほとんど池田駅構内の街道沿いに本社を建てたという説も採れ、これはこれで最重要施設が駅の傍に置かれているという点で極めて自然に思えるのである。

以上、それらしい結論は出たが、最終結論というにはまだ程遠いようである。

明治42年の寺畑村略図

明治42年の寺畑村略図(トレース=筆者)
明治42年測量・明治44年発行の二万分の一地形図[7]より寺畑村集落と駅の部分を拡大・抽出したもの。

現況

「北谷8番地」の現況 (2000.11.1)
三井物産寮から南東を向いて撮影。道路の左側が北谷8番地だった所である。

本社写真

「阪鶴鉄道解散記念写真帖」より「池田本社」(明治40年頃)

<<    >>

鉄道の町 川西 (Home)   Copyright ©2000 by Toshio Morita All rights reserved.
写真の無断転載を禁じます.
ご意見・ご感想は、morita@sowa.comまでお気軽にどうぞ.