■ 安達製作所 D51半流Kit (→D5166)

C11で蒸機工作の魅力に目覚め、次の題材にD51という流れは、ありがちの展開かもしれません。しかし、このアダチのキットを手に入れてから完成といえる状態に持ってくるまでに2年近くもかかってしまいました。9割方出来たところで1年以上半ば放り出してしまい、その原因はというとディテールバランスという一種の強迫観念から来るもので、これまたありがちな状況でしょうか。
手付かずのキットが山積みという内容の文章を雑誌で見かけるにつけ、何故せっかく買ったものをすぐに組み立てないのかと工作を始めた頃は訝ったものですが、5年経って遅まきながら私にもその意味が解った気がします。1つや2つの仕掛品ならともかく、数はどんどん増えるし目の方もそれなりに養われて来るといくら工作が面白いとはいえ時間も足りず意欲も空回りするというものです。

私はD51標準型の、あの前から見た給水暖め器の位置があまり好きではなく、初期型・試作型好きということも手伝ってD51でも初期の半流型を手がけるのに迷いはありませんでした。が、腕も省みずフルディテールに近づけようと思ったのが運の尽き、だったのかもしれません。
細部の工作を行うには実機を見るに如くはありません。このモデルでは片町線沿線の祝園にある川西小学校(奇しくもこの名称ですが本編の川西とは無関係)という学校に静態保存されている66号機を取材に行きました。一応福知山線に縁のあるカマを選びたかったのですが、ちょうどこの66号機はあのDD54が事故対策で工場入りしている間ピンチヒッターとして吹田第一機関区より応援に入ったという記録がありましたし、重油併燃装置を備えている点でも特徴があって好都合かと判断したわけです。また、吹田に入替機として来る前は福知山機関区に所属していました。

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最初の難関は半流ドームです。アダチのパーツは何もディテールは付いていませんので、半ば定石ですが板の合わせ目を表現する筋彫りと真鍮線植え込みによるボルトの表現などを行います。ただし、筋彫りは自家エッチングで行いました。失敗する確率が低いですし、はっきりとした筋が出来るのでお勧めです。煙突部分には火の粉止め取り付けのための切り欠きがあります。また煙突の前のカーブは中心角90°になる位の正円弧を描いているように見えますが、パーツはかなり緩く、また稜線の角も寝ています。これらをヤスリ修正するとプレスパーツですから容易に穴が空いてしまいますし、前後の寸法が足りなくなったりもして途方に暮れました。煙突部分で前後を切り離して試行錯誤可能なようにしたのですが、2個目で何とか納得行く形になりました。とはいえ実機通りのシルエットとは行かず、何とか格好の付く範囲での修正に留まっています。後側は重油タンクの前で切り落として蓋を付けています。裾は紙ヤスリと簡易ルータで厚みを削っています。

キットそのものの問題は殆どなく、素組みなら簡単とも思えるのですが、ステップのために明けてある穴が大きすぎるのがちょっと厄介です。特にボイラー側面の2列のステップには泣かされます。

次の難関はスノープラウです。これはRMM 50号のD51 727の記事に触発され、洋白板材から同じようにして作ったものです。スノープラウそのものよりも、取り付け足のボルト植え込みなどが困難でした。ちなみに、この記事たった6ページですが写真も大きく工作中に何度参照したか知れません。3倍近くに拡大しても何の破綻もないハイレベルの作品でした。特に線材の処理には感動すら覚えます。
なお、保存機にはスノープラウは付いていませんが、福知山で活躍していた頃はこういう形態の物がついていたのではないかと推測します。端梁に取付穴らしき穴が明けられています。

重油タンク(モア)や動力逆転機・給水ポンプ・コンプレッサー(ニワ)などはパーツを付けるだけなので楽しい工作の部類に入ります。重油タンクの肩のカーブは小さすぎるかもしれません。動力逆転機は残念ながら非可動です。ラジアスロッドもミッドギア固定になります。(その辺を可動にする加工は上級編というより超人編かと筆者には思えてしまいます。)

以下、細かいことになりますので興味のある方は写真のキャプションをご参照ください。

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このアダチ製品は、設計の基本となるプロポーションの良さに定評があるようです。 但し、前から見た感じを左右するデフの間隔(内寸2570mm→32mm)を見ると、2mm弱程度オーバーになっているようです。16.5mmの軌間に合わせてシリンダー間隔を広げているためですね。
煙室前面はニワの削り出しパーツで、開閉可能です(煙室内部もニワ)。
デフの点検穴蓋は、0.1mm厚真鍮板から作り、蝶番も表現しました。
デッキ手摺の白色は、筆塗りがまずくて太くなってしまっています。線径自体はこんなに太くありませんので、いずれやり直したいと思っています。
ランボードの白線はかなり気が重い作業です。烏口を持っていないので面相筆でエナメルの艶消白を入れましたが、はみ出した所(主にデッキの裏側と放熱管上部に滲み出ました)は白の部分をマスキングして黒を塗りなおしました。キャブ下の奥で筆の入らないところは塗っていません。
黒はグンゼの黒にフラットベースを適宜(やや少なめに)入れて半艶にしたものです。
ロッドはめっき工房で再メッキしています。ニッケルメッキを筆1往復くらいとし、その後黒ニッケルメッキをサッと施した後、キサゲ刷毛でごく軽くムラを消しました。色は良いのですが艶の感じがどうしても表面的になり磨き出しらしい深みは出ません。が、オリジナルのメッキに比べるとちょうど塗装の厚塗りと薄塗りのような差が感じられます。もちろんメッキ本来の意味ではオリジナルが上なのでしょうが。ちなみにテスト的に真鍮地肌の完全に出たジャンクのロッドにニッケルメッキした時はさらに鋼鉄らしい良い感じでした。メッキのはがし方が足りなかったのかも知れません。

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炭水車の幅は2800mmですが、1/80で35mm、寸法通りの設計になっています。13mm化のベースとしても問題ありませんね。
側面に並ぶリベット列は実機を参考にしています。上から見ることは出来なかったのですがC58などでも見られるように傾斜した炭庫底板が追加されていると想像できます。(実際そのように底板も加工してみました。)
ライト座の自作、エコーの配電管・炭庫リブ・吊上フック、暖房管の終端にコックとキャップ(ウィスト)を追加など結構手を掛けています。
エンジン側には鈴木工房のATS機器箱を埋め込み、車上子までの配管を行った他、TMS No.311の記事に準じた加工をしています。
カプラ−はケイディーのNo.4を加工したもので、中央復元機能はありません。
台車はブレーキ装置の付いたスパイクモデル製のものです。通常のセンターピンは付きませんので、テンダー内部側からのネジ止めに変更しました。

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公式側キャブ下は最後まで頭を悩ませた部分です。
従台車は最初珊瑚のC57のものを改造していたのですが、その後D51のものも入手できましたので、そちらに替えました。軸箱に付く速度検知棒はTMS 668の記事を参考に首振りに支障なく可動するものを作りました。台枠は途中で切り離し、分配弁の載る後部はリベットを植え込んだものを自作して端梁つまり上廻りに付けています。
泥溜めは台車との干渉を避けるため前方に移動してあります。
長いキャブ庇は自作したものです。
なお、運転用のドローバー間隔はもっと広く、エンジンから出た配管とテンダーのステップがぶつからない余裕は見ています。最小回転半径についてはシリンダーに付けてしまったロストのピストン調節装置と先輪の間の干渉の方がむしろ問題です。

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非公式側キャブ下は配管がわかりやすいために反対側と比べれば楽でした。ここも従台車との干渉を避けて配管を後ろ寄りにアレンジしています。
缶水清浄装置下の弁装置はそのものずばりのパーツが無いようだったので、ウィストの見送り給油器を付けました。
その他、写真を見返して思い出すことはいろいろありますが、きりがないのでやめておきます。

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キャブ屋根はスライド取り外し式にしてあります。発電機排気管はキャブ妻板の上にコの字型に曲げた帯板で目立たない取付座を設け、取付強度を出しています。屋根前端がコの字部分に収まってストッパーを兼ねるようになっています。

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火室上部の配管は取材により大体解ったのでほとんど再現してありますが、取り回しがタコ足状態でそのまま再現してもしょうがないだろうと思い、配置を整理しています。
加減弁引棒は最も強度的に問題のある所で、あまり力を加えられません。

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動輪タイヤ側面はいつも黒塗装していますが、踏面のマスキングにはモデラーズの「ハイテクマスキングテープ」というテープを重宝しています。これは伸縮性があるため少し引っ張りながらタイヤに巻きつけると実にうまくフィットしてくれます。(通常のマスキングにはタミヤのテープを使用していますが。)

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なお、動力は今のところ付属のMC1628モーター(ORIONと書いてあります)・ゴムジョイント・ギヤボックスです。

at station

(2001.8.完、2001.8.11記)



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