■ マッハ模型 阪急600形

小学生の頃、西宮球場で「2000人の吹奏楽」という定期的なイベントがありました。吹奏楽とマスゲームを併せたような出し物をいろいろな学校や団体が競うもので、筆者の学校でも参加していました。吹奏楽部員ではなかった筆者も「その他大勢」を演じるために宝塚から西宮北口に行く今津線をクラスの仲間と待っていると、見たこともないイボイボの付いたいかつい電車が入って来ました。当時テレビで再放映されていた「ウルトラマン」からの小学生らしい連想で思わず「ゾフィーの電車」などと囃し立てていましたが、このリベット満載の古めかしい電車こそ、「イボロク」の異名を持つ名車600形の末期の姿でした。
大正末期に川崎造船により製造され、神戸線に使用された全鋼車で、その後今津線・宝塚線でも活躍しました。いわゆる川造標準形といわれるタイプの最初のものであり、似た形の車が東急、西武、長野電鉄、豊川・鳳来寺鉄道など向けにも製造されたということです。

別項で書いた51形のコンプレッサーを求めて二子玉川の模型店で雑談していた折に、横にいた別のお客さんからこの600形のキットがあることを教えてもらい、それ以来4年程折にふれて探し回った末、ようやく昨年になって1セットだけ入手し、半年かけて完成させることができました。
例によって時期や車番によって形態にかなり差があります。いくつかの写真を元に、非貫通・両側運転台、絶縁布部分に円月状水切がなく、台車がボールドウィンタイプ、ということで多少の想像も交え、昭和10年代後半頃の600または601あたりという想定で作りました。ただし、床下機器は手を入れていません(キットのプロトタイプは昭和23〜26年頃とのこと)。

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これまでは80WのGOOTの半田コテを使っており、小手先が利くのでそれ一本で通していましたが、このキットでは裏から加熱する場面が多そうなので、蓄熱量の大きいSUREのものを用意しました。例えばリベットのエッチングされた帯板を貼り付ける場面などがそうで、このコテを併用したことで何とか切り抜けることができました。(実はWellerのガンタイプの200Wのコテが良いという話も聞いたのですが、入手することができませんでした。)
ちなみにこの帯板は実車では板同士の接続部分にかぶさるものだと思いますが、そのままでは厚みが出過ぎるため裏をヤスリがけして使用しました。それでもまだオーバースケールのような気もします。

この帯板貼りの他に苦労した点としては、前面の継ぎ目の処理とオデコのプレスパーツの合わせ処理で、以上の3点がなければごく簡単なキットなのですが…。
前面は左右の側板の延長をなぜか一番目立つ真ん中で合わせるようになっています。しかも左右の高さが少しずれていたので、ディテールを基準に合わせ、その結果上下に出っ張った部分はヤスって均等にする羽目になりました。継ぎ目はハンダ盛り整形を行い、リベットを潰さないよう慎重にペーパーを掛けて平滑化しました。
オデコはリベット表現付きのプレスパーツで、このキットの命のように見えます。が、そのままでは合わないのでヤットコ等でかなり大胆に整形しました。このとき、肩のRが連続になるように、ハイライトで現れる線を頼りに調整しました。最終的には少量のハンダ盛りも併用して何とか納まってくれました。

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屋根との境目の雨どいはキットの説明書には指示がないものの、エッチング表現だけでは弱いので、φ0.5線で追加してあります。
また、扉横に手すりがあるものと扉下部に取手があるものとが見受けられましたが、省略しました。

塗装はマッハのマルーン(新)と鉛丹色で、屋根の絶縁布部分は黒を少し混ぜたフラットベースを吹いてあります(あまり色を変えるとツギハギのようになってしまい美しくないように思えました)。台車は鉛丹色にオレンジをさらに混合したものです。窓枠は銀と金の混色をベースに吹いた上に少し黒を入れて暗くしたクリアオレンジを重ねたものです。窓の保護棒は1段にしようか2段にしようかと迷った所で、西尾克三郎氏写真集「電車の肖像(下)」を見て2段で行くことにしました。白黒写真でも落成時の写真以外はおそらく車体と同一色のように見えるのですが、見栄えを採って金色としました(燐青銅線の金メッキです)。取り付けはエポキシ系接着剤によっています。ナンバーは付属のものを文字単位で切り離し・整形して貼り付けています。

キットの指示ではKS-33台車(11mm車輪)を使用するところを10.5mm車輪のボールドウィンの設定に変えたので車高が気になり、現物を改めて計った結果逆に1mm程も腰高になっていることが判りましたので、床板をくり抜き、台車の高さを調節しました。

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社紋は唐草飾りのないタイプにしたいと思い、マッハ製旧社紋の飾り部分を落とし、丸棒に付けてドリルレースで整形したものを貼り付けています。アクリル(クレオス)の金色を塗った上にエナメルのマルーン(ハンブロール)を塗って半乾きのうちに硬い紙などで溝に溜まった部分以外の塗料を除去して金色を出しています。

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(2002.4.完、2002.4.27記)



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